鈴虫窯について
日本の伝統と現代の感性が融合する、手作りの陶器工房
作家紹介
田中 健一 (Tanaka Kenichi)
鈴虫窯の創設者であり、主宰である田中健一は、幼少の頃より自然、特に昆虫の世界に魅了されてきました。大学で陶芸を専攻し、伝統的な日本の陶器技術を深く学びながらも、彼の心は常に小さな命への敬愛と、それを土で表現することにありました。
卒業後、数々の著名な窯元での修行を経て、彼は独自の作風を確立。日本の四季折々の情景の中で見かける昆虫たちの姿を、繊細かつ力強く陶器に落とし込みます。彼の作品は、ただの「写実」に留まらず、昆虫が持つ生命力、儚さ、そして美しさを、土の温もりと釉薬の深みで表現。見る者に静かな感動を与えます。
「第25回日本伝統工芸展」入選、「全国陶芸展」最優秀賞など、多くの賞を受賞。国内外での個展も多数開催し、その作品は、自然と共生する日本の美意識を現代に伝えるものとして高く評価されています。
彼の作品は、ただの芸術品ではありません。それは、自然への深い洞察と、ものづくりへの誠実な情熱から生まれる、生きた証なのです。
鈴虫窯の歴史
鈴虫窯は、2005年、田中健一が東京・江戸川区西葛西の静かな一角に開窯しました。この地を選んだのは、都会の喧騒の中にも、移ろいゆく季節の微かな気配や、風に揺れる草葉の音、そして夜には鈴虫の鳴き声が聞こえる、そんな情緒豊かな環境があったからです。
「鈴虫窯」という名前は、秋の夜長に澄んだ音色を奏でる鈴虫のように、繊細でありながらも人々の心に響く作品を生み出したいという創設者の願いが込められています。また、鈴虫が土に潜み、変態を経て美しい姿を見せるように、粘土が人の手を経て、窯の中で新たな命を得るプロセスを象徴しています。
開窯以来、鈴虫窯は、昆虫というニッチなテーマに特化し、その奥深い美しさを陶器で表現し続けています。地域のコミュニティと連携し、陶芸教室を通じて、土の温もりや創作の喜びを多くの人々と分かち合い、伝統工芸の継承にも力を入れています。小さな工房から始まった鈴虫窯は、今や国内外から愛される存在へと成長しました。
インスピレーションの源
鈴虫窯の作品に一貫して流れるテーマは「昆虫」と「自然」です。日本の豊かな自然環境は、数多の美しい昆虫たちを育み、彼らの生命の営みは私たちに多くの示唆を与えます。
夏の夕暮れに飛び交うホタル、秋の虫の音、冬の間にひっそりと息づく越冬卵。それぞれの昆虫が持つ独特のフォルム、色、模様、そして生態は、田中健一にとって尽きることのないインスピレーションの源です。
彼の作品は、昆虫の姿を単に模倣するだけでなく、彼らが織りなす生命の物語、自然界の摂理、そして日本の伝統的な美意識と生命観を陶土に託して表現しています。陶器を通して、見る人が自然の一部としての自分を感じ、生命の尊さに思いを馳せるきっかけとなることを願っています。
制作工程
1. 土練り (Dorenri - Kneading the Clay)
作品制作の最初の重要な工程。粘土中の空気を抜き、均一な硬さにすることで、ひび割れを防ぎ、形成しやすくします。
2. 成形 (Seikei - Forming on the Wheel)
土練りされた粘土をろくろに乗せ、手や道具を使いながら、意図した形へと作り上げていきます。繊細な手の動きが職人の技の見せ所です。
3. 削り (Kezuri - Trimming)
半乾きの状態(半磁器/革のように硬い状態)になった器の底や側面を削り、全体のバランスを整え、重さを調整します。
4. 装飾 (Soshoku - Decorating)
器の表面に、昆虫の姿や自然の風景などを彫刻、絵付け、象嵌(ぞうがん)などの技法で表現し、作品に生命を吹き込みます。
5. 素焼き (Suyaki - Bisque Firing)
乾燥させた器を約800℃の温度で焼成します。これにより器は硬くなり、釉薬(ゆうやく)をかけやすくなります。
6. 施釉 (Seyu - Glazing)
素焼きされた器に釉薬を施します。釉薬の種類や厚み、かけ方によって、焼き上がりの色合いや質感が大きく変わります。
7. 本焼き (Hon-yaki - Final Firing)
釉薬を施した器を、約1200℃~1300℃の高温で本焼成します。これにより、釉薬が溶けてガラス質となり、器は完成します。